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2012.01.15

半身浴読書~167~

51wp8z111kl__sx230_ 『犠牲(サクリファイス)-わが息子・脳死の11日』 / 柳田邦男、読了。

『半身浴読書~162~』のコメントで、さなえさんに勧めていただいた本を読んでみた。

精神的病をもった息子との関わりや、その息子が自殺を図った後、脳死状態から心停止に至るまでの数日間のことが、正直に書かれていると思う。

自分の場合、臓器移植はかなり身近な問題だ。オットへの腎臓移植だ。

『ついにオットが透析を始める』という記事で、みなさんから励ましとお叱りを受けたが、どうしてもオットへの申し訳なさは消えることはなく、透析の話が具体的になってきたとき、自分から腎臓の提供を申し出た。これまでのオットの頑張りに感謝の意を示すには、それが一番いいのではないかと思ったからだ。

その後、Webでさまざまな情報を得ると、腎臓提供者の中には、術後、疲れやすくなったり体が弱くなったと感じる人もいるようで、そうなると我が家のように子供たちが自立する前の段階だと、夫婦そろって弱ってしまったのではまずいんじゃないかと思う気持ちも生まれている。

結局のところ現段階では、移植の話はひとまずペンディングで、オットは一日4回の腹膜透析に全力を尽くしている。

話が逸れた。

二男の洋二郎さんが脳死状態になったことで、筆者は、脳死が人の死といえるか、また脳死者からの臓器提供はどうするべきかなど考察している。

『死』を点でとらえるのではなく、脳死から心停止までの面でとらえ、生と死の境界線を決めるのは、残された近親者とするという提案は、実際に脳死から心停止への11日間を経験したからこそできるものだろう。わたしは、非常に共感を覚えた。

この提案のあと、こんな記述がある。

(前略)

 右のような幅のある死の定義は、そのファジーさゆえに、伝統的な死の概念と先端医療における脳死とを両立させるだけでなく、過渡的な治療法にすぎない臓器移植だけのために、万人共通の重大事である死のかたちを変更・混乱させる危険もないという豊饒さを含んでいる。

(後略)

臓器移植という新しい技術を使うためには臓器提供者が必要不可欠であるが、そのことのために伝統的な死の概念を無理やり変えようとするのは、やはり無理があるのではないかと思う。

    

先日、akkoが志望校調査票に印鑑を押してほしいと持ってきた。そこには希望する大学名と学部名が記入してあり、志望理由の一番最後に『将来は、人工臓器と人工血液の研究開発をしたい』とあった。何も言わないが、我が家の状況を彼女なりに理解し、考えてくれているのかもしれない。とても嬉しかった。

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書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

もう一昨年のことになりますが、娘が交通事故で意識不明からようやく回復に向かいはじめたころ、テレビのニュースで、「未成年者からの脳死移植が認められるようになって、最初の移植患者が無事退院しました」と、顔が映らないように配慮した映像が流れました。私の心境は言葉にもしたくなかったですが、「ああ、どこかで未成年の子供が事故に遭って、臓器提供したのだ。悲しみのどん底にいる家族がいるのだ」と、眺めていました。
健康に暮らしているときは、よそ様のこと、と思っていますが、突然なのですよね。わが身に降りかかってくるのは。
因みに、夫は、あの天使マークの臓器移植カードができた当初から、サインして携帯しています。私は家族が反対するとダメなんたぞ、と、当時は反旗を翻したい気持ちでしたが、今は、本人の意思を尊重、へと気持ちも傾いています。

投稿: 街中の案山子 | 2012.01.16 12:47

街中の案山子さん

そうですね。臓器提供で救われる命には、必ず脳死に陥った命が必要なんですよね。

柳田氏は、死を『一人称の死』、『二人称の死』、『三人称の死』と分けてそれを受け止める感情の違いを説明しています。こういったことは、当事者になったときとならないときとでは、感じ方が大きく違いますよね。

お嬢さんはその後いかがですか?無事、お母さんになられたでしょうか。

投稿: とと(>街中の案山子さん) | 2012.01.16 23:07

はい、あの震災の月に関東で無事出産し、母子ともに元気です。

柳田邦男さんのこの本の出版時の記憶があります。自殺という表現を避けて「自死」としておられるところに、大切な子供の自らの死を受け止めざるを得なかった悲痛さが滲んでいるようでした。と、もうひとつ、物書きは自分の子供の死までを、出版するのか、という気持ちもありました。

投稿: 街中の案山子 | 2012.01.18 21:39

渡米して腎臓移植を行った男性の手続きやマニュアル一切を翻訳したことがあり、人ではなく臓器だけが注目されることに違和感を覚えている頃に読みました。辛い本です。私のブログでも一時期かなり激しい意見の交換がありました。

私がお手伝いした人は無事に移植を終え社会復帰なさっていますのでそれはそれで喜ばしいのですが、どうしても、寺尾修司の、一つ幸せを見つけると他の誰かが一つ幸せをなくすと分かっていても幸せが欲しいかというメッセージが心によみがえってきてしまいます。

投稿: さなえ | 2012.01.19 19:18

そうそう、下の娘も人工血液や臓器を研究したいと大学入試の頃に言っていました。人工臓器はまだ無理でしたが、今はips細胞の研究を補助していますよ。

投稿: さなえ | 2012.01.19 19:23

街中の案山子さん

そうですか!おめでとうございます。
生まれる前から大事件を経験した赤ちゃんですから、きっと強くて逞しい人になることでしょう!

>もうひとつ、物書きは自分の子供の死までを、出版するのか、という気持ちもありました。

そうですね、それ、わかります。
でも、実際に身内に脳死宣告された人の体験や気持ちを聞くことは、非常に稀だと思うので、こうして正直に文章にされたのは意義あることなんじゃないかと思います。


投稿: とと(>街中の案山子さん) | 2012.01.21 23:09

さなえさん

>どうしても、寺尾修司の、一つ幸せを見つけると他の誰かが一つ幸せをなくすと分かっていても幸せが欲しいかというメッセージが心によみがえってきてしまいます

よくわかります。
こんなこと書くと人間性を疑われそうですが、実際オットがわたしの腎臓提供の申し出に非常に喜び、すぐにでも実施したそうな感じがしたとき、健康な人の臓器をもらってでも生きたいものなのか・・・と思ってしまいました。

>私のブログでも一時期かなり激しい意見の交換がありました。

そうなんですか。
差し支えなければ、TBが欲しいです。人

>人工臓器はまだ無理でしたが、今はips細胞の研究を補助していますよ

すごいですね~。

でも、医療でできることと、医療でしていいこととは違うと思うので、技術の発展とともに死生観というかなんかそういう内面の発展も必要だなと感じます。

投稿: とと(>さなえさん) | 2012.01.21 23:17

臓器移植は波及する問題を含んでいて、なんとも複雑です。文筆家立花隆さんがかつてテーマとして取組んでいらして、彼の結論は、脳死移植を制度として認めることには反対したように記憶しています。但し、彼自身は、臓器提供のカードにサインしていると聞きました。
中国などへ臓器移植手術に行くお金持ち日本人がいるし、フィリピンの囚人は、腎臓を売って保釈金を作るとかも…。

投稿: 街中の案山子 | 2012.01.22 09:28

TBさせていただきました。何本かありますのでブログ右下の記事検索の欄に「臓器移植」と打ち込んで探して戴けると幸いです。
先ほど書いている途中で消えましたので再度書いているのですが、もしかして重なっている可能性もあります。ごめんなさい。

投稿: さなえ | 2012.01.22 10:42

街中の案山子さん

そうですよね。
臓器移植って、つまりは、それを行ってまで生きたいもしくは生かしたいと思うかどうか…なんじゃないですかね~。
わたしなど、できるだけ早くこの世から撤収したいと思うタイプなので、すぐにあきらめちゃいそうです(汗)。

投稿: とと(>街中の案山子さん) | 2012.01.23 23:35

さなえさん

TBありがとうございました。
全部じゃないですが、読ませていただきました。
わたしもさなえさんのお気持ちに近いですね、臓器移植に関して。
臓器提供は、ドナーの家族が心から同意して行われるべきだし、法律はあくまでも臓器を取り出す意思が殺人罪に問われないためのものであるはずです。法律を作ることで、ドナーが増えるわけではないと思いますし、増えないことと他者への善意がないこととは、まったく別の話だと思います。

投稿: とと(>さなえさん) | 2012.01.23 23:40

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